子と母親の関係を如実に説いたお経に『父母恩重経』があります。
このお経は、父母、特に母親の懐妊から出産・育児・成長にいたる
までの苦労の恩がこまかく、また切々と説かれています。
表題の「母の情けをいのちとなす」は、「母のふところを寝どことなし、
母の膝を遊び場となし、母の乳を食物となし」に続く言葉です。
このお経に説かれた母親像に、母と子の関係の本質が見られれば
良いなあと思います。
子の親殺し、親の子殺しのニュースを聞くたびに、どうなってしまった
のだろうかと思わざるをえません。
母親に、もう子育ての自信がなくなってしまったのでしょうか。
母の愛情を心の栄養として得られなかった子が、成長してどんな悲
惨な生涯を送るかは、昨今の多くの少年犯罪を見ても明らかです。
子はいつの世も「母の情けをいのちとなす」ことに変わりはないはず
です。
別に、父母の恩を強調したいがために、このお経を紹介したいのでは
なく、むしろ、今のお母さん方に読んでもらいたいと思います。
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『父母恩重経』には、父母に十種の恩があることが説かれていますが、
この多くは主に母の恩にあたるものです。
1.懐胎守護(かいたいしゅご)の恩
母は子を胎内に宿すと十月の間、我が身の血と肉を分かち与えて
守り育み、そのため自らは重病を感じるほどだ。
2.臨生受苦(りんしょうじゅく)の恩
いよいよ臨月の時、生みの苦しみを感じることは、言葉に尽くしが
たく、母胎を死に至らしめることもあるほどだ。
3.生子忘憂(しょうしぼうゆう)の恩
子が産声を上げて健やかに生まれる時は、これまでの苦しみをす
っかり忘れ、自分も新しいく蘇生したほどの喜びである。
4.乳哺養育(にゅうほよういく)の恩
初めて子を生んだ母の顔は、花のように美しかったのに、やがて
子を養うこと数年すれば、養育に全身を使い果たし、次第に衰え
てゆく。
5.廻乾就湿(かいかんじゅうしつ)の恩
冷たい霜の夜、凍りつく雪の朝にも、乾いて暖かいところに子を寝
かせ、我が身は湿って冷たいところにいるようにする。
6.洗灌不浄(せんかんふじょう)の恩
一日に何度も赤ちゃんのおむつを取り替えたり体をきれいに洗うこ
とを、母は厭うことがない。
7.嚥苦吐く甘(えんくとかん)の恩
食べ物を口に含んで、子に与える時、苦いものは母が飲みこみ、
甘いものを子に与える。
8.為造悪業(いぞうあくごう)の恩
子のためには、みずから悪いことをしてしまい、そのために来世に悪
い果をうけてしまうことがあるほどだ。
9.遠行憶念(おんぎょうおくねん)の恩
子が遠いところに行けば、帰ってくるまで落ちつかず、寝ても覚めて
も子の無事を願う。
10.究竟憐愍(くきょうれんみん)の恩
生きている間は、子を護るためなら自らの命を捨ててもいいと念じ、
死後にも、子を護ろうと願う。
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今のお母さんたちは、もうこれほどには我が子を大事に養い育てることが
できなくなったのでしょうか。それとも、今の子どもたちの方が、お母さんの
恩をそれほど感じることができなくなったのでしょうか。
しかし、いつの世になっても、母の子に対する愛情は、本質的に変わらな
いものだと思います。
そして、私たち教師は、登校してくるすべての子どもたちが、そんな恩愛を
受けている子どもたちであるということを肝に銘じておかなければいけない
と考えます。